F(emale)-1GP 『30年後、名牝系として血統表にその名を残す牝馬と

『30年後、名牝系として血統表にその名を残す牝馬とは?』
このテーマを聞いた時に『伴性遺伝』というワードが思い浮かんだ人は多いのではないでしょうか。
かくいう私もその一人でして、こと血統、配合において『未来』を語る上ではこの『伴性遺伝』という考え方は極めて重要であると考えてます。

〜伴性遺伝とは
馬の場合、性別はXとYという2種類の性染色体組み合わせによって決定されています。牡馬であれば(XY)牝馬であれば(XX)と言った感じですね。
このうちY染色体は父(XY)から息子(XY)へのみ受け継がれるのに対し、X染色体の方は父(XY)から娘(XX)へ、あるいは母(XX)から息子(XY)および娘(XX)へ、
という径路で伝えられます。
そして競走馬において大きな心臓を持つという特徴がX染色体を通じて伴性遺伝するということが分かっています。(詳しくはMarianna Haun著のX FACTOR)
また牝馬の持つ(XX)の性染色体が両方とも大きな心臓を伝えるとされる場合、そのような牝馬を『ダブルコピー牝馬』と呼んでいます。

X FACTORでは名馬SecretariatとライバルShamを死後解剖した結果、大きな心臓を持っていたというところからスタートし、そこから母父であるPrincequilloに注目し心臓の大きさは伴性遺伝よって伝わるといった仮説を得ます。
検証し進めることで最終的にX染色体の遺伝径路上を遡りPocahontasという牝馬が大きな影響を与えたとするのです。また血統表からも伴性遺伝的に確からしいPocahontasはダブルコピー牝馬であった推察できます。
それ故にPocahontasはその優秀な繁殖成績によってその血を大きく広め、大きな心臓を伝えたとされています。
さらに同著内では心臓の大きさスコア化した結果、大きな心臓を伝える特定のハートライン(X染色体の遺伝径路)としてPrincequilloWar Admiral、Blue Larkspur、Mahmoudの4代ハートラインを特定するにいたります。

これらの調査はX染色体と心臓の大きさの関係についてオーストラリアや北米の競走馬を中心とした実験や調査をもとに語られていますが、調査が行われなかった欧州やその他の地域でも同じことが言えると私は想像します。
またX染色体由来の遺伝情報のうち競走的に優位をもたらす要素が『心臓』のみではなく他にも存在する可能性もあるのではないかととも考えます。
私は調査の行われなかった他の地域のおいても繁殖成績に優れ伴性遺伝的に確からし繁殖牝馬群のX染色体の遺伝径路を遡ることで、X染色体由来の競走に優位となる資質と伝える優秀な経路を大まかに切り分けていくことが出来るのではないかと考えます。


前置きが長くなりました。
今回、テーマの『30年後、名牝系として血統表にその名を残す牝馬とは?』を予測するにあたり僕は
1、X染色体に由来する競走に優位となる資質を伝える優秀な経路を持ち、伴性遺伝的に確からしいダブルコピー的牝馬である。
2、自身および近親が競走的に実績を持っている。
この2つを高いレベルで満たすことがテーマにあげられるような名牝となる確率を高めると考えました。

まず『名牝系』というくらいなのでやはり自身の活躍はもちろんその産駒の活躍が求められると思います。
そして産駒が繁殖入りし、その仔からさらに活躍する産駒が産まれその仔が繁殖入りし。。。。といった循環が生まれることによって牝系というのは枝葉を伸ばしていくわけです。
先ほど話したダブルコピー的な、伴性遺伝的に確からしい繁殖という話がこの循環の上で非常に相性がよさそうなことはイメージしやすいと思います。
実際、過去のおける名牝と言われる繁殖の中にはダブルコピー的な、伴性遺伝的に確からしい繁殖がたくさん含まれています。
もちろんダブルコピー的でなくとも特定の優れた種牡馬に対して大きく親和性を持った繁殖が優秀な繁殖成績を収めその結果牝系を伸ばすということも多くあります。
しかし今回は30年という長射程の予測をするにあたりこういったケースを予測することは不可能に近いと考えました。
来年のダービー馬さえ予測できない僕が10年後、20年後、30年後のリーディングサイアーを予測するというのは極めてナンセンスと言えます。

また自身や近親の活躍というのも重要になります。
30年という長射程での予測故、こちらは伴性遺伝に関わらずそのときの時代に合った資質を持った種牡馬とベストトゥベスト的に配合されやすいという点がありリスクをヘッジできる他、種牡馬となる競走成績に優れた牡馬のBMSが優秀であるケースも少なくないということがあります。

この2つの条件を高いレベルで満たす1頭を紹介したいと思います。
去年の暮、有馬記念を勝利し競走馬として有終の美を飾り引退したジェンティルドンナです。
競走実績においてはもはやこれ以上の牝馬を上げるのが難しいくらいの輝かしい実績を持っています。なのでこちらについての説明は割愛させてもらいます。
次に血統面なのですがまずジェンティルドンナ牝馬なのでX染色体を父から半分(正確には父の母からですね。)、母から半分受け継ぐことになります。
つまりウインドインハーヘアドナブリーニですね。
結論から言うとこの2頭の牝馬は極めて優秀なX染色体の遺伝径路を持っています。
ウインドインハーヘアのX染色体の遺伝径路上を遡ると上述したPocahontasと比肩するほど大きな影響力を持ちX染色体由来の競走に優位となる資質と伝える優秀な経路と言えるSeleneのラインを複数持っていることがわかります。さらに4大ハートラインの一つPrincequilloの母Cosquillaの名前も出てきます。
また繁殖成績としてもディープインパクトをはじめ、かなり優秀だと言えるでしょう。
よってウインドインハーヘアは伴性遺伝的に確からしいダブルコピー的牝馬であると私は考えます。
ドナブリーニのX染色体の遺伝径路上を遡ると父の母の母Courtly Deeという名前が出てきます。Courtly Deeは現在世界で最も勢いがあると言って過言ではないほど強烈に勢力を強めている優秀な経路です。上述した4大ハートラインのうちのWar Admiral、Blue Larkspurの2つと、La TroienneやCinna、Plucky Liegeと言った名牝の名前が出てきますね。
そしてCourtly Deeの他にもSweet ToothやMy Bupersなど伴性遺伝的に確からし牝馬の名前がX染色体の遺伝径路上の近い代に集中しています。
繁殖実績もジェンティルドンナの他に全姉ドナブリーニを出しておりこれからも優秀な産駒を次々に出していくことが期待されます。
よってドナブリーニも伴性遺伝的に確からしいダブルコピー的牝馬であると私は考えます。
そして両親からこういったX染色体を受け継いだジェンティルドンナウインドインハーヘアドナブリーニのように優秀な母となるのではないかと予測します。
もちろん今最も勢いある種牡馬であるディープインパクトやその他サンデーサイレンスの仔や孫との交配することが出来ない(現実的でない)と言った難しさもあるとは思いますが、そういった特定の種牡馬に頼らずとも名馬を送り出すことが出来るということを過去のダブルコピー的名牝達は教えてくれます。